霊長類研究 Supplement
第30回日本霊長類学会大会
セッションID: P35
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ポスター発表
チンパンジーは自分の選択の正誤を判断しているのか?
*黒澤 圭貴*川口 ゆり*友永 雅己
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抄録

認知課題遂行中のチンパンジーが、解答の正誤を自分自身でどの程度推測しているのかを調べた研究は、今までほとんどなされていない。チンパンジーは、自分の解答が正解か否かを、自身の中である程度判断しているのだろうか。このことを確かめるために、本研究では、京都大学霊長類研究所のチンパンジー1個体(アイ)を対象にして、認知実験中にチンパンジーが示す行動の分析をおこなった。通常の認知実験では、与えられた課題に対する選択反応に対して、その反応の正誤を実験参加個体に伝えるためのチャイムやブザーなどの正誤フィードバックは、選択反応後すぐに与えられる。しかし、本研究では、選択反応から正誤フィードバックまでの間に1秒間の遅延時間を挿入し、その遅延時間中にアイがどのような行動を示すかを観察した。アイは遅延時間中にさまざまな行動を示したが、本研究では大きく3つの行動、「反応なし」(選択反応後、特徴的な行動を特に示さない)、「横を見る」(選択反応後、認知実験中に報酬を供給する給餌器の方向に顔や体を向ける)、「給餌器を見上げる」(選択反応後、「横を見る」行動よりさらに大きく体や頭を動かし、給餌器の方を見上げるようにして確認する行動)に、アイが示したそれぞれの行動を分類した。なお、行動の評価が恣意的なものになることを防止するために、2人の観察者がアイの行動の評価をおこなっている。その結果、アイは、反応時間が短いときには、反応時間が長いときよりも有意に高い確率で給餌器を見上げる行動を示し、また誤答時にはその行動を示す割合を有意に低下させるという行動パターンを示した。これらの結果は、チャイムなどの外部からの正誤フィードバックが与えられなくとも、認知課題中のチンパンジーが、自分の解答の正誤を、ある程度自身で推測していることを示唆している。

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© 2014 日本霊長類学会
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