霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: A2
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口頭発表
ニホンザルは行動圏の周縁で食物パッチ利用を変化させる
栗原 洋介半谷 吾郎
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抄録

行動圏防衛は食物資源の獲得を通して動物の生存や繁殖に結びつく重要な行動である。一方、防衛行動にはケガなどのリスクが伴うため、動物は不必要な争いを避けている。たとえば、行動圏の周縁で視覚・聴覚・嗅覚シグナルを用いて自群の存在をアピールすることで、隣接群との距離を調節し、群間攻撃交渉を避けていると知られている。しかし、そのようなシグナルを持たない種が行動圏内の場所(中心/周縁)によって行動を変えているのかどうかについては十分に検討されていない。屋久島海岸域に生息するニホンザルは群間コミュニケーションのためのシグナルを持たないが、群れ密度が非常に大きく、頻繁に群間エンカウンターが起きる。そこで、本研究では屋久島海岸域に生息するニホンザルを対象とし、行動圏内の食物パッチの位置がパッチ利用に影響をあたえるかどうか検証した。対象は屋久島海岸域に生息するニホンザル1群である。2013年2月から10月の間、対象群に属するすべてのオトナメス(1-4個体)を個体追跡し、直接観察を行った。追跡個体がパッチを利用した際、滞在時間、採食時間、同一パッチ内個体数、見回し行動の頻度を記録した。また、GPSを用いて、追跡個体およびパッチの位置を記録した。行動圏の周縁のパッチでは、同一パッチ内個体数が多かった。しかし、パッチ滞在時間、滞在中の採食時間、見回し頻度は変わらなかった。屋久島海岸域では群間攻撃交渉の勝敗が群れサイズによって決まるため、周縁のパッチでより多くの個体と近接することは行動圏を防衛するために効果的なのかもしれない。あるいは、個体の見回し頻度は変わらなかったが、周縁のパッチでより多くの個体と近接することで、群れレベルで見回し頻度を増加させている可能性がある。これは、より早く他群を発見し群間エンカウンターを避けることに貢献しているかもしれない。

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© 2015 日本霊長類学会
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