霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: A17
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口頭発表
飼育下チンパンジーにおける母から子にむけた拍手行動の出現
平栗 明実川上 文人Chloe Gonseth市野 悦子林 美里
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抄録

チンパンジーにおいても他個体、またはヒトに向けられたジェスチャーをすることは知られており、言語に先立つ行動としてさまざまな研究がおこなわれてきた。しかし、それらの定義は研究者間で異なる部分があり統一されていない。チンパンジーのジェスチャーを発達的な視点から解明すべく、私たちは日本モンキーセンター(JMC)で産まれた乳児とその母、父からなる一群を対象に観察おこなっている。本研究では、母子間の身体的距離が出現しはじめた時期から見られるようになった、母親の拍手行動に着目し分析をおこなった。以前、母マルコが豊橋総合動植物公園にいるときには、祖母マルタも母マルコも拍手をしていたようだが、JMCのこの群では、産後しばらくはマルコが拍手をしている様子は観察されなかった。観察対象は2014年7月25日に産まれたチンパンジーの乳児(マモル)とその母(マルコ)とした。観察の手続きは2014年7月26日から毎週土曜日1時間とし、分析は、はじめに母マルコの拍手行動を切り出し、その前後にみられた行動を全てチェックし、母子の距離、視線の向きに基づいて、可能な限り客観的に分類した。これによって、母マルコは乳児マモルとの身体的距離が出現しはじめた頃から、頻繁に拍手行動をおこなうようになったことがわかった。その際、母マルコの視線は乳児マモルのことを注視していることが多かった。拍手行動の生起する前後の母子の行動を時系列的に調べることで、ジェスチャーのおこる文脈や、子どもの発達にともなう変化を詳細に明らかにできると考えられる。また、母マルコは産後2ヶ月半で性皮腫脹が再開した。そこで、マモルへの授乳回数と授乳継続時間、父ツトムとの交尾回数、マルコの性皮腫脹の有無を調べた。4月からはピルの投与が始まり、今後は性皮腫脹がなくなるため、母マルコの行動にどのような違いが起こるかを観察していく。

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© 2015 日本霊長類学会
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