霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: B7
会議情報

口頭発表
ニホンザルにおけるPTC味盲多型の急速な拡がり
鈴木-橋戸 南美早川 卓志松井 淳郷 康広平井 啓久颯田 葉子今井 啓雄
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
苦味感覚は採食品目に含まれる生理活性物質や毒性物質を検知する役割をもつ。そのため、苦味感覚を担う苦味受容体遺伝子群(TAS2R)は採食環境や代謝能力に応じた変化をしてきた。我々は、野生動物におけるTAS2Rの適応的な変化を明らかにするために多型解析を行った。これまでの研究で、ニホンザルにおいてTAS2R38の開始コドンに変異をもつアリルを同定し、この変異は苦味感受性を低下させていることを明らかにした(Suzuki et al 2010)。このアリルは紀伊地方の集団のみに存在し、その集団では3割の遺伝子頻度を示した。このアリルの拡散が適応によるものか、偶然によるものかを明らかにすることを本研究の目的とした。まず、感受性変異アリルの由来を明らかにするために、TAS2R38遺伝子周辺領域10kbpの配列解析を行った。その結果、紀伊集団中に存在した感受性変異アリル23本はすべて同じ配列であった。次に、紀伊集団の遺伝的特性を把握するために、紀伊集団および近隣7集団の非コード領域9座位の配列解析を行った。その結果、紀伊集団の遺伝的多様性は他の集団と大差なく、移出入も頻繁に起こっていた。非コード領域で求めた集団間移動率を用いて、感受性変異アリルが3割の頻度まで増える間に他の集団に流出しないという事象が、変異が中立である場合に起こりうるかをシミュレーションにより検証したところ、このようなケースは観察されなかった。以上の結果から、この感受性変異アリルは紀伊集団において正の自然選択の影響を受けて短期間に急速に集団に拡がったと結論付けた。本研究で、ニホンザルの紀伊集団においてTAS2R38の適応的な変化が起きたことを明らかにした。TAS2R38はアブラナ科や柑橘類の植物に含まれる苦味物質を受容する。本遺伝子の変化によりこれらの植物の苦味を感じにくくなることがニホンザルの環境適応を醸成し、このアリルが紀伊集団に急速に拡がる要因になったと推察された。
著者関連情報
© 2015 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top