抄録
ヒトをはじめ多くの生物にとって、味は食物を体内に取り込む前に得られる重要な情報である。生物はそれぞれの食性に合わせて味覚受容体の機能を変化させることで多様な味覚を獲得してきたと考えられることから、食物・味感受性・味覚受容体は互いに強い関連性を持っている可能性が示唆される。中でも甘味は食物中の代謝可能な炭水化物の含有を意味することから多くの生物で好む傾向があり、霊長類でも様々な種で行動実験により甘味感受性の測定が行われてきた。一方で、ヒト以外の霊長類について甘味受容体の機能測定や、食性と甘味感受性の関連性についてはほとんど解明されていない。本研究では特に食性の知見は多いものの甘味感受性や甘味受容体機能についてほとんど研究が行われていないニホンザルに焦点をあて、「霊長類における食物・甘味感受性・甘味受容体機能の関連性解明」を目的として、甘味感受性や受容体機能の測定を行った。二瓶法を用いた行動実験により、ニホンザル6頭を対象に人工甘味料であるスクラロースをコントロールとし、スクラロースとスクロースの甘味感受性の測定を行った。さらにヒト20人に対し官能評価による甘味感受性の測定を行った。ヒトとニホンザルの甘味感受性と比較したところ、ヒトではスクラロースと同様にスクロースを甘く感じるには170倍以上の濃度が必要であるのに対し、ニホンザルでは約80倍程度の濃度で同程度に甘く感じることが分かった。また、ニホンザルの方がヒトに比べスクロース溶液から甘味を検出できる閾値が低い、すなわち甘味感受性が高い可能性が示唆された。これらの結果に甘味受容体の機能が関与している可能性が考えられるため、現在培養細胞に甘味受容体Tas1R2/Tas1R3を強制発現させ、特にスクロースが結合するのに重要なTas1R2に注目した細胞応答測定を行うことにより、個体レベルの甘味感受性の違いに甘味受容体がどのように寄与するのか検討を行っている。