抄録
網膜で光を関知する視細胞は、錐体(cone)と桿体(rod)の2種類からなる。棹体細胞は、微弱な光の刺激をを受容する役割を担う。光は、通路に関して棹体細胞の最奥部で受容され、その前に細胞の核の部分を通過する。夜行性の哺乳類では、核の中央部にヘテロクロマチンが凝集し、これが光を集める凸レンズの機能を果たすことが、以前から知られている。昼行性から夜行性から移行したと考えられるヨザルも、棹体細胞にヘテロクロマチンの凝集が観察される。我々は、ヨザルのゲノムに、他の新世界ザルにはない特有のヘテロクロマチンが大量に存在することを見出した。このヘテロクロマチンをOwlRepと名付けた。OwlRepが生じた時期は不明であるが、ヨザルが新世界ザルの他の系統から分岐した後に急速に増幅したことは、明白である。このOwlRepが視細胞でのヘテロクロマチンの凝集の主体となっていると仮定すると、夜行性への急速な適応がゲノムの構成の急速な変化でもたらされたとの説明がつく。この可能性をさぐるために、ヨザルの棹体細胞の核でのOwlRepの所在を調べた。OwlRepをプローブとしたハイブリダイゼーションである。結果は、OwlRepが核の中央部に集まっていることを示した。この結果は、OwlRepが視細胞でのヘテロクロマチンの凝集の主体となっているとの仮定に合致する。ただし、ヨザルのゲノムには、セントロメア反復配列であるアルファサテライトDNAも大量に存在し、こちらが凝集の主体である可能性を排除するには至っていない。とはいえ比較のために調べた昼行性のマーモセットとタマリンでは、アルファサテライトDNAは凝集していない。以上の結果を合わせて考えると、OwlRepが業種の主体である可能性は大きいといえる。