抄録
哺乳動物の分子発生生物学といえばマウスを対象とした研究が主流となってきましたが、霊長類と齧歯類では発生・発育様式に多くの違いが認められます。とりわけ、生殖細胞の生後の発生・分化について考える場合、霊長類の精原細胞(精子幹細胞を含む未分化な細胞)はマウスとは異なるカテゴリー(Adark/Apale)に分けられる、霊長類では新生児と成体の間に長期にわたる性的未成熟な期間(幼若期)が存在するなど、マウスの研究結果を単純に外挿することは困難です。その一方で、マウスのように簡便に試料を得ることができないなどの理由から、霊長類生殖細胞の発生動態とその分子基盤は未だ多くの謎に包まれています。こうした背景を踏まえ、本研究では霊長類モデルとして小型の新世界ザルであるコモンマーモセットを対象に、新生児(生後1日齢)、幼若児(生後10ヶ月齢)、成体(2~10歳)の雄の生殖細胞の発生・分化における遺伝子発現動態を解析しました。その結果、(1)精原細胞は、非分裂性のSALL4+PLZF+LIN28+DPPA4+DAZL+細胞と分裂性のC-KIT+Ki67+DAZL+細胞の2つの集団に大別されること、(2)精子形成の分化段階特異的な遺伝子とそれらの発現動態、(3)性成熟前の幼若期にのみ精細管内腔に偏在する生殖細胞は、減数分裂様のプロセスを経てアポトーシスにより除去されること、が明らかとなりました。これらの成果は、霊長類生殖細胞の発生・分化研究に必要不可欠なプラットフォーム(遺伝子発現アトラス)を提供するとともに、霊長類生殖幹細胞の樹立・培養やiPS細胞の生殖細胞分化誘導などに取り組む上での指標になると考えられます。