抄録
野生ニホンザルの出産率は栄養状態や前年の出産状況と強く関係しており、年によって大きく異なる。宮城県金華山島では2014年に例年になく多数のアカンボウが産まれたため、アカンボウの社会関係の発達の個体差を検証するには絶好の機会であった。本研究では野生ニホンザルでは、どのような個体がアカンボウに近接するのか、近接されるアカンボウに選択性はあるのかを明らかにすることを目的として、母親以外の個体とアカンボウの近接関係について観察を行った。
金華山島の野生ニホンザルB1群は計35頭の群れで、2014年には13頭のオトナメスのうち11頭が出産した。これら2014年産まれのアカンボウ11頭(オス7頭、メス4頭)を対象個体として、5・6・12月に計104時間の個体追跡を行い、対象個体の行動、対象個体から1.5m内にいる近接個体、社会交渉の相手と内容について記録した。
その結果、アカンボウと母親以外の個体との近接頻度には個体差が見られたが、アカンボウの性別や出生順との関連、血縁関係のある個体の頭数との関連はなく、また、アカンボウの母親の順位・出産経験による影響もみられないことが明らかとなった。またアカンボウの運動能力が低い5~6月には、2014年に出産しなかったオトナメス2頭と5~6歳のワカメス3頭のうち、オトナメス1頭とワカメス2頭によるアカンボウへの近接頻度が特に高いことが明らかとなった。その中でも高順位個体の方が低順位個体よりも多くアカンボウに接触していた。しかし低順位個体でもアカンボウへ高頻度に近接する個体も見られたことから、アカンボウへの関心の度合いに個体差があることが考えられた。またアカンボウの運動能力が高まった12月には、アカンボウ同士の近接頻度が他個体と比べて高くなり、発達段階によって近接相手が変化することが明らかとなった。