霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P44
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ポスター発表
飼育チンパンジーにおける夜間の就眠場所を指標とした個体間関係の検討
市野 悦子林 美里
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抄録

京都大学霊長類研究所では現在、男性4個体女性9個体のチンパンジーを2群(A群とG群)に分けて飼育している。2012年6月に、次世代を作るための群れづくりを開始し、2群間での個体の移籍を進めてきた。A群のアユム(14歳、2015年4月現在)を父親候補に、G群にいたパン(31歳)とクレオ(14歳)を母親候補としてA群に移籍させ、自然交配による次世代繁殖の試みを継続している。しかしアユムとパン・クレオとの交尾の目撃例はまだ少なく、両者を中心とした群れ内の個体間関係の検討と、それに基づく介入が必要であると考えられる。これまでも本研究所では、チンパンジーの個体間の社会的関係について、最近接個体の調査がおこなわれてきた。しかしそれらは日中の観察に限られたものだった。そこで、本研究所のチンパンジーたちの個体間関係を、夜間の就眠場所という指標から検討した。チンパンジーの夕食後に各個体の就眠場所を記録し、個体間の距離を調査した。さらに、母親候補個体の性周期に着目し、性皮腫脹レベルと比較した。その結果、夜間のアユムとパンの距離はパンの性周期によって大きく変化し、パンの性皮腫脹時には最も近くなった。一方アユムとクレオの距離は、性皮の腫脹に関係なく一定だったが、一時的に近接度が高まった時期があった。また2013年9月には同居していた高齢の1個体が死亡した。2014年9月からは群れの中心である複数の男性個体が体調不良になり、一時的に隔離もおこなった。このように日中の群れ構成が変化することで、就眠場所および個体間関係にも変化が見られた。夜間の就眠場所の記録からも個体間関係や施設の利用状況がわかり、次世代の繁殖や群れ管理のための有用な資料となることが示唆された。今後も群れ構成の変更や飼育環境の拡大などが予定されており、それらの評価にも本研究を応用したい。

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© 2015 日本霊長類学会
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