霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P43
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ポスター発表
国内飼育下フクロテナガザルにおける適切な個体群管理に向けた個体情報収集と評価
綿貫 宏史朗奥村 文彦打越 万喜子友永 雅己平田 聡伊谷 原一松沢 哲郎
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抄録

2015年4月20日現在,フクロテナガザルSymphalangus syndactylusは,日本国内では動物園を中心とした11施設で36個体が飼育されている(GAIN調べ)。これらすべての個体は(公社)日本動物園水族館協会が年に1回発行する「テナガザル国内血統登録」に記載されている。しかし,専任の登録担当者が置かれているわけではなく,各施設からの情報提供に頼っているため,個体情報が不十分なことも多い。そのため,国内での具体的な血統管理や繁殖計画がなされているとはいい難い状況にある。そこで,大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)と日本モンキーセンター(JMC)による独自の情報収集により,現存する個体の血縁関係や過去の個体情報を調べ,個体群の状態について評価をおこなった。2015年4月20日までにGAINのデータベースに登録された個体数は96個体(国内血統登録未掲載の21個体を含む)だった。このうちファウンダーとして最も多くの子孫を残した個体はハリマオ(♂,GAIN#0123,JMCにて1964年来園・1975年死亡)であり,40個体(全体の42%)にハリマオとの血縁があった。現存するものでは36個体中20個体がハリマオの子孫にあたる。全施設の繁殖ペアのうち少なくとも3組においてハリマオの子孫間での近親交配(兄妹・おば甥・従姉弟)がみられている。近親交配による影響などはまだ確認されていないが,本種の長期的な維持を目指すのであれば,遺伝的多様性に配慮した個体群管理や繁殖計画が必要だと考えられる。今後,これらの情報をもとに,PMxなどの個体群管理ソフトなどを使用しより効果的な管理計画を立案していきたい。本種は,飼育展示効果や教育普及価値は高いが,ペアの絆が強いぶん排他的な性格で,一般に長く生きる動物でもある。相性のいいペアでは数年おきに繁殖がみられることもある。それだけに,限られた資源・空間のなかで,個体の福祉にも配慮した効果的な管理計画が求められている。

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© 2015 日本霊長類学会
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