Macaca属は雄が移出入する社会を形成している。出生した出自群から他群へと移籍する第一次移籍、移籍した群れからさらに他の群れへと移籍する第二次移籍の実態を明らかにすることは、雄の生活史の最も重要な側面の一つである。雄間の順位、雄の性行動、群れの遊動域、群間優劣関係などと雄の移籍との関係を明らかにすることは、M. arctoidesの進化研究の基盤を与えるにちがいない。しかし、野外研究がほとんどないM. arctoidesでは雄の移出入に関する研究はほとんどないのが現状である。我々は、タイ王国・カオクラプックカオタオモ狩猟保護区において、2012年から長期継続調査を始めた。本個体群は数十年前には少数個体の単群であったが、2012年には4群となっていた。これらの群れを人付けし長期連続観察を進めてきた。本報告では、以下の3つの調査期間に分けて雄の移出入とそれに関係する雄の生活史の側面について報告する。第1期間:2012年から2014年までの主調査群Ting群での雄の移出入、第2期間:2014年までには4群の人づけが完了し、2014年から2015年の1年間継続調査中の雄の移出入、第3期間:2015年10月にThird群が分裂した前後から2016年3月までの期間の雄の移出入。第1期間では第1位雄の交替、第3期間では分裂という大きな社会変動が起きたことと雄の移出入とを関連づけて考察する。なお、現在DNAによる父子判定、血縁判定の研究を推進しており、雄の生涯繁殖成功度と連関させて雄の生活史を理解することが最終目標である。