群れで暮らす霊長類では、他個体の存在により、利益と不利益が生じる。限られた資源や配偶相手をめぐる競争などでは、他個体の存在は不利益となる。このような存在が近接しているとき、個体のストレスレベルは上昇すると考えられる。一方で、群れの凝集性の維持や縄張りの防衛などにおいては、他個体の存在は欠かせない。このように利益をもたらす存在が近接しているとき、個体のストレスレベルは低下すると考えられる。これまでの研究では、専制的な社会構造をもった種の野生群における近接個体と個体のストレスレベルの関係が検証されていない。そこで本研究では、ニホンザル野生群を対象に、近接個体と個体のストレスレベルの関係を検証した。ストレスレベルの行動学的指標としては、スクラッチを用いた。宮城県金華山島に生息するニホンザルA群のオトナメス15頭を対象に、2014年6月~11月においてデータ収集を行った。1個体1回10分の行動観察を行い、スクラッチ、対象個体の1m以内に出入りした個体を全て記録した。スクラッチの頻度は、近接他個体がいるときの方がいないときよりも低かった。これは、他個体が近接しているときの方が、個体のストレスレベルが低く、他個体の存在を重視している可能性が示唆された。現在、近接個体が1個体のときに限り、近接個体との相対的順位・血縁関係とスクラッチ頻度の関係性を分析している。さらに、交尾期・非交尾期に分け、季節により他個体への寛容性が変化するかどうかも分析している。発表では、これらの結果も加えて、ニホンザル野生群における近接他個体のストレスレベルへの影響を考察する。