霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: P03
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ポスター発表
離乳前後における野生チンパンジーの採食行動の発達変化
松本 卓也
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抄録

これまでの霊長類学における「離乳時期(=アカンボウ期の終わり)」は、母親の発情再開年齢や、次子の出産日から妊娠期間を引いた時期など、主に母親の視点から定義されてきた。その理由は、子の授乳量を野外での行動観察から正確に知ることができず、子が母乳に依存することなく、栄養源を他の食物に移行することができる時期が不明確だからである。しかし、野生チンパンジーの長期調査による研究成果から、3歳以上の子は孤児になっても生き残る可能性があるなど、これまで母親視点で「離乳時期」とされてきた4-5歳よりも早い段階で、チンパンジーの子は栄養的な離乳を迎えていることが示唆されている。そこで発表者は、栄養的な離乳の時期と考えられる3歳前後において、採食行動に関するどういった発達変化が起きているかを分析した。本研究の対象はタンザニア・マハレ山塊国立公園の野生チンパンジーM集団に属する母子のべ18組である。発表者は2011年1~9月、2012年9月~2013年8月、および2015年6月~8月の期間において、子の採食時間、採食品目、および採食場面における他個体やりとりについて行動データを収集した。そして、子の採食品目ごとの採食時間、および他個体からの食物分配の有無について、3歳前後における変化を分析した。その結果、葉を採食する時間割合が、栄養的離乳の時期と考えられる3歳前後で大きく増加する傾向があった。また、他個体から分配を受けたものを採食した時間割合は、3歳前後で減少する傾向があった。葉は二次代謝物を多く含み、消化器官の未発達な子にとっては採食困難なものである。また、分厚い殻に覆われた果実など、子が自力で採食困難なものを食べる際に、他個体から食物分配を受ける傾向があるとされている。これらの結果から、チンパンジーの子の栄養的離乳は、採食困難な食物を自力で採食可能になるという、採食行動の質的な変化が基盤となっていることが示唆された。

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© 2016 日本霊長類学会
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