ボノボ(Pan paniscus)はコンゴ民主共和国に固有の大型類人猿であり、2006年には世界自然保護基金(WWF)のトゥンバ湖ランドスケープ調査により、同国西部にまとまった個体群が確認された。その分布域の南西端にあたるマレボ地域では、首都キンシャサからの距離が近いこともあり、ボノボの観察を柱としたエコツアーの実現を目指し、地元の環境保全NPOであるMbou Mon TourがWWFの支援のもと、2006年より複数の集団の人付けを開始している。大型類人猿をテーマとしたエコツアーの実施においては人獣共通感染症のリスクが大きな問題とされている。人からの感染症による類人猿の死亡事例が報告されていることから、観察時の距離の制限やマスクの装着などの感染防止策だけでなく、感染症や寄生虫への罹患状況などについてのモニタリングを実施することの重要性が指摘されている。マレボ地域では、人付けが進められているNkala集団とMpelu集団の2集団において、人獣共通感染症による呼吸器疾患により2013年と2014年の4月から5月の雨季の終わりの時期にそれぞれ複数頭の死亡が確認されている。そのため、マレボ地域でもエコツアーを将来実施するためには感染症モニタリングプログラムの導入が急務と考えられる。そこで日本モンキーセンターは、同地でのボノボの健康状態の定期的なモニタリング実施を目指した活動を開始した。2015年8月から2016年4月の間に2度の予備調査を実施しており、今後、寄生虫と呼吸器疾患を中心にモニタリングを行うための本調査を実施する予定である。本発表では現地での調査の進展状況と今後の課題について報告する。