日本本土における純野生ニホンザルの群れの人付けおよびその生態学的・社会学的研究の進展は、日本霊長類学にとって重要である。私たちは東京都奥多摩湖周辺に生息する野生ニホンザルの群れ、通称「山ふる群」を主な対象群として、年間を通じた調査研究を行ってきた。本研究は2013年度から始まり、調査内容は主に、ラジオテレメトリー法を用いた群れの位置の定位、直接観察による行動観察、群れの性年齢、識別個体等の確認、食性の記録等である。2015年度の調査ではQGIS上に1日一点の群れの位置を落とし、季節ごとおよび通年の遊動面積を最外殻法を用いて求めた。2015年度の総観 察日数は102日であった。山ふる群の推定最大頭数は88頭であった。採食された植物性食物は、同定できたものだけで77種(122部位)であった。通年で見た場合、観察された採食の回数の多かったのは、オニグルミの種子、サクラ属の果実、草本類、カキノキの果実、クズの葉、サクラ属の葉、ヤマグワの葉であった。食性は人工植生に強く依存しているものの、群れは現在民家の集中する湖北部をほとんど利用せず、山のふるさと村を中心とする隣接群の存在しない湖南部を広く利用していた。2015年度の群れの推定遊動域面積は開放水域を除いて33.0km2で、既知のニホンザル自然群の遊動面積中でもきわめて広い部類に属する。他地域のニホンザルの群れと同様に群れの遊動には、その季節の食物条件が強く影響をあたえていると考えられる。交尾期に通常のオスからメスへのマウンティング行動だけでなく、メスからメスへ、メスからオスへのマウンティング行動や、冬であるにも関わらず自ら湖に入水する行動、秋から冬にかけての頻繁な分派行動等、他の群れと比較すると面白い行動も観察され始めており、今後行動に注目した調査も必要である。