ニホンザルは季節性多発情動物であり、秋から冬にかけての約6ヶ月間のみ発情し繁殖を行うことが知られている。発情期の間は卵巣機能が活性化して性ステロイドホルモンの分泌が促進され、またそれらのホルモン濃度は周期的な動きを示す。人工授精や胚移植など、人工繁殖技術を成功させるためには排卵のタイミングを正確に判定する必要がある。本研究では、室内個別飼育下の雌ニホンザルを対象に、非侵襲的に採取可能である尿サンプルを用いて、尿中発情ホルモン代謝産物(E1G)および黄体ホルモン代謝産物(PdG)濃度動態をみるために、酵素免疫測定法による測定を非繁殖期から繁殖期まで長期間実施し、室内個別飼育下の雌ニホンザル(N=16)における性周期の特徴と傾向を詳細に調べた。その結果、対象個体の半数は、一般的に知られているニホンザルの発情開始時期(9月)よりも2ヶ月ほど遅れて、11月後半より周期的なホルモン濃度動態を示し始めた。中には、1月に入ってからホルモン濃度の増加と周期的動態を示した個体もいた。また、E1GおよびPdG濃度のピークの値は個体によって差がみられた(E1G: 43.4-301.2 ng/ml,PdG: 262.3-3957.2 ng/ml)。さらに、繁殖期に生理出血がみられていても不規則であり、性ステロイドホルモン濃度動態にも周期性がみられない個体もいた。これらは、ホルモン濃度動態から排卵を伴わない生理出血であったことが内分泌学的に示唆された。よって、室内個別飼育下の個体を使用して、胚移植などの人工繁殖技術を実施する際は、レシピエントなどの対象個体の発情時期が通常より遅延すること、また、生理出血がみられていても卵巣機能が正常な周期性を保っていない可能性があることを考慮すべきであると示唆された。これらの傾向は、室内飼育下においては環境温度や光周期といった外部環境が人工的に制御されており、年間を通して変化が乏しいことによると考えられた。