脊髄神経後枝の分布領域である背部は本質的に最初に形成された体幹の最も古い部分であるとされており、種や部位による分化の違いが少なく、一様な分節的構成を持つとされている(山田, 1985)。しかし、ヒト・ニホンザル(平成27年度霊長類研究所共同利用研究)脊髄神経後枝内側枝の起始、走行経路、分布を固有背筋との位置関係に注意して、詳細に観察した結果、ヒト・ニホンザルともに胸神経後枝内側枝と腰神経後枝内側枝では走行経路が異なることを明らかにした(布施・時田, 2013; 時田, 2015)。しかし、ブタ胎仔標本での観察では、胸神経後枝と腰神経後枝に走行経路に違いは無かった(時田, 2014, 2015)。ヒト・ニホンザルでの腰神経後枝内側枝の特異化は、狭鼻猿類または霊長類に特有な形態ではないかと推察している。この議論には四足動物における脊髄神経後枝の形態との比較観察が不可欠であるが、四足動物脊髄神経後枝の詳細な観察は行われていない。そこで、今回は広鼻猿類のアカテタマリンを対象として、脊髄神経後枝の起始、走行経路、分布を固有背筋との位置関係に注意して、詳細に観察を行い、ヒト・ニホンザル脊髄神経後枝の形態との比較を行った。その結果、後枝内側枝の形態は大きく3つに分類できた。a:筋構成が胸部の様式であるもの(Th1-Th9)、b:胸腰部移行領域(Th10-Th11)、c:筋構成が腰部の様式であるもの(Th12以下)の3つに細分化できた。a:皮枝・筋枝共に横突棘筋群の第1層(半棘筋)と第2層(多裂筋)の間を走行する。b:横突棘筋群の第2層(多裂筋)とさらに深層の回旋筋の間を走行。c:回旋筋の深層を走行。これらの形態は、ヒト・ニホンザル胸腰神経後枝の形態に類似している。以上より、腰神経後枝内側枝の特異化はヒト・ニホンザルに固有の特徴ではなく、アカテタマリンにも共通する特徴であるとことが示唆される。本研究は、京都大学霊長類研究所共同利用研究として実施された。