霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: A16
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口頭発表
レッサースローロリス(Nycticebus pygmaeus)個体内で異所的に適応する細菌叢
*矢野 航清水 大輔寺尾 由美子岡部 直樹早川 卓志
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抄録

[目的]歯周病は,齲蝕と並ぶ口腔領域における2大疾患の一つであり,口腔内細菌叢に存在するPorphylomonas gingivalisを始めとした偏性嫌気性歯周病原菌による感染症である。近年,日本モンキーセンター(JMC)飼育のレッサースローロリス(Nycticebus pygmaeus)に広範な歯周病感染が見られることが分かった(寺尾ら,2016)。彼らに歯周病菌の感染が起こったことが示唆されるが,口腔細菌がどのように広がるのか,その経路は不明である。食物分配などがなく,接触感染機会が少ない単独性霊長類レッサースローロリスにおける口腔細菌の感染経路を解明するために,JMC内で歯周病と診断された個体の口腔及び皮膚の湿性試料を採取し,含まれる細菌叢をメタバーコーディング解析により網羅的に探索した。同じ個体内で異所的に存在する細菌叢の比較し,場所間での類似性から細菌感染経路の検討を行った。[材料と方法]JMCで飼育されているレッサースローロリスのべ6頭から,口腔内【歯垢(上下顎8箇所),唾液,舌苔】,口腔外【上腕部の腺液,耳垢】の湿性試料を採取し,Lysis buffer液に保存後,細菌叢DNAを抽出・精製した。ユニバーサルプライマーで16S rRNAの部分領域をPCRで増幅後,シークエンスライブラリを作成し,次世代シーケンサー(MiSeq, Illumina)を用いて細菌種構成を同定した。[結果と考察]各歯種および舌,唾液間に異所的に存在する細菌叢の比較から,レッサーロリスの口腔細菌叢の空間的分布と相互関係が明らかとなった。またプラーク除去処置が行われた1頭の処置前後データ比較から,細菌種構成の経時的変化が観察された。また,上腕腺を舐めるそれを防御毒として子供に塗布するレッサースローロリスの特異的行動が細菌叢間の交流に与える影響を考察し,同種での歯周病菌感染リスクを検討した。

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© 2017 日本霊長類学会
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