赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)はヒト以外の霊長類にも感染すると考えられており,サル類におけるアメーバ感染の実態を明らかにすることは,人獣共通感染症対策の見地からも重要である。我々はこれまでに,様々なマカク類における腸管寄生アメーバの感染状況について報告してきた。そして,野生のアカゲザルなどから,赤痢アメーバとは異なる新種の病原アメーバEntamoeba nuttalliを分離し,その性状について解析している。今回,中国四川省の峨眉山に生息する野生チベットモンキーの糞便89検体を採取し,腸管寄生アメーバの探索を行った。糞便から抽出したDNAについて,PCR法によって各種Entamoeba属虫体の検出を試みた。その結果,E. chattoni(E. polecki ST2)が59検体(66%),大腸アメーバ(E. coli)が37検体(42%),E. nuttalliが15検体(17%)において陽性であった。一方,赤痢アメーバとE. disparは検出されなかった。また,糞便を培養し,E. nuttalliの6株(EM3, EM4, EM22, EM38, EM50, EM54)を分離した。これらの分離株は更に完全無菌化した。このうちEM4とEM50についてクローニングを行い,18S rRNA遺伝子を解析した。その結果,これまでに中国の貴州省や広州チワン族自治区のアカゲザルから分離されたE. nuttalli株の配列と完全に一致した。更にtRNA関連の反復配列について6つの座位で解析したところ,5つの座位では6株間で完全に一致したが,座位A-LではEM4, EM38, EM50に複数の配列が検出され,多型性が認められた。一方,中国のアカゲザル由来株との比較では,6座位すべてで違いが認められ,これらの多型は地理的分布の違いを反映していた。今後,宿主の移動や拡散,進化と寄生アメーバの多型化との関係を明らかにしたい。