これまで演者らは,ベニガオザルの種特異的な行動の幾つかを報告してきた。唇や睾丸へのmock-biteや犬歯欠損などの多様な雄雄出会い行動,性行動におけるマスト交尾,最上位雄がわずか10分足らずの射精間隔で10から20回以上の連続射精交尾を行うなどである。ベニガオザルは,マカク属のなかでは,特異的な真っ白いあかちゃんを出産する。本発表では,白いあかちゃんの性器を口に含む,手で触るなどの多様な赤ちゃんの性器への接触行動(TBG, Touch Baby Genital)の概要を報告する。調査対象は,タイ王国カオクラプック野生動物保護区に生息する半野生ベニガオザル個体群である。Ting群の2頭の経産雌を個体追跡し13.7時間と6.9時間のヴィデオ記録を分析した。ATの観察によって,2雌とも出産初観察日は3月4日で,その数日前に出産したと推測された。したがって,TMの個体追跡期間(2017年3月20日から4月1日)での赤ちゃんの日齢は,16日から28日+数日と推測される。この日齢頃の赤ちゃんは,群れ移動時には腹にしがみついているが,群れ休息時には,母から離れて歩き回り,母へと戻ることを繰り返す。TBGは,母から離れていた赤ちゃんが母へと戻るタイミングで発生し,他個体はこのタイミングを見計らって待ち構えるように母へ接近し,TBGに特異的な音声(gugugu)を発する。TBGには,母にしがみつく赤ちゃんをひっくり返してその性器を口にふくむ行動を含めて多様なバリエーションが見られる。あかちゃんへの接近やTBGを許されず母から攻撃される場合もあるが,TBG後,母へ短時間グルーミングが見られることもある。本報告では,白いあかちゃんを巡って繰り広げられるベニガオザルの種特異的行動TBGについて報告し,親とは違う毛色の赤ちゃんを出産する霊長類のアロマザリング行動と比較検討する。