霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: P25
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ポスター発表
ニホンザルにおける敵対的交渉後場面の第三者との親和的交渉の効果
*勝 野吏子山田 一憲中道 正之
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抄録

敵対的交渉(ケンカ)が生じると,その攻撃者,被攻撃者ともに,ストレスの上昇やさらなる攻撃を受けるリスクの増加といった不利益が生じる。敵対的交渉後場面では仲直りと呼ばれる攻撃者と被攻撃者の間での親和的交渉のほかに,攻撃者か被攻撃者のどちらか一方と敵対的交渉に参加していない第三者との親和的交渉が生じることもある。第三者との交渉は,敵対的交渉により生じたストレスを低減させる,さらなる攻撃を防ぐ,間接的に仲直りを行う,といった機能を持つと考えられている。第三者との交渉が生じるかどうか,生じる場合にはどのような利益があるのかは,種や敵対的交渉の際の役割などにより異なる。この研究では餌付け群のニホンザルを対象として,第三者との親和的交渉が生じるのか,生じるのであれば,攻撃者と被攻撃者それぞれにおけるその機能を検討した。嵐山群(京都)の成体メス91頭を対象として,敵対的交渉後場面と統制場面の行動を観察した。攻撃者,被攻撃者ともに,統制場面と比べて敵対的交渉後には,親和的交渉が早く生じていた。これは,敵対的交渉の直後には,第三者との親和的交渉が起こりやすいことを示している。攻撃者では第三者との親和的交渉を行った後には行わなかった場合よりも,ストレスの行動指標であるスクラッチを行うことが少なかった。一方被攻撃者では,第三者との親和的交渉を行った後には,他個体から攻撃を受けることが少なかった。このことから,第三者との親和的交渉は,攻撃者にとってはストレス低減,被攻撃者にとってはさらなる攻撃を防ぐという利益があることが示された。攻撃者と被攻撃者が親和的交渉を行った第三者は,敵対的交渉の相手よりも親しい個体であることが多かった。

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© 2017 日本霊長類学会
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