ニホンザルは,メンバーがひとまとまりで暮らす凝集性の高い群れを作る。これまでの研究によって,各個体が周囲の個体の動向を把握し自分の行動を調節することで,互いの近接が保たれていることが示唆されている。その一方で,群れが一時的に2つ以上の集団に分かれて行動する分派も,季節や群れによっては頻繁に見られる。互いに近接しあうようにふるまうニホンザルが,なぜ分派するのか,明らかになっていることは少ない。そこで,宮城県金華山島に生息する野生ニホンザルを対象として,分派直前から合流までの集団の動向を把握・整理することで,分派の要因を検討することを試みた。2014年4月から2017年3月までのさまざまな時期に群れを追跡し,定期的に群れの動向(凝集性,目視できる個体名とその活動内容,移動の方向など)や音声コミュニケーションを把握した。群れが分派した場合にも,いずれかの集団を観察し,同様のデータを収集した。分派開始時の追跡集団・他方集団の動向と,分派中の追跡集団の動向,音声コミュニケーションの起こり方について整理したところ,いくつかのパターンに分けられた。採食に関する欲求の不一致が要因で追跡集団の多くのメンバーにとって意図的な分派と考えられるパターンや,群れ全体の動向がつかめないことによる,追跡集団にとっては非意図的な分派と考えられるパターンが見られた。今後は,分派の観察事例を増やすとともに,これらのパターンの分派がどのような社会的・生態学的条件で見られるのか検討したい。