霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: P33
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ポスター発表
遊び食べを含めた野生チンパンジーの子の食物レパートリー
*松本 卓也
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抄録

野性チンパンジーの食物レパートリーには,集団ごとに文化的な差異があるとされている。そして,それらは社会的学習によって世代間伝達されると考えられている。これまで子の食物の学習に関する研究では,食物分配を通して,子にとって採食困難な食物を学習する,あるいは,他個体が食べている様子を見て自分も食べるなど,「他個体から学ぶ」という側面が着目されてきた。一方,野生下での観察において,若い個体が新規な食物を食べ始める傾向が強いという指摘がある。また,食物レパートリーの多くは,子にとっても比較的容易な品目である。しかし,多様な植物の中からそれらがどのように選択されているか,という点を詳細に分析した研究はこれまで行われていない。そこで本研究では,(1) 野生チンパンジーの子の食物が,発達過程でどのように変化するかを網羅的に調査し,(2) 食べ始める際に他個体とどのようなやりとりをしているか(あるいはしていないか)を明らかにすることを目的とした。本研究の対象はタンザニア・マハレ山塊国立公園の野生チンパンジーM集団に属する母子のべ18組である。発表者は2011年1~9月,2012年9月~2013年8月,および2015年6月~8月の期間において,子が口にしたものと口元の操作(口に入れる,咀嚼するなど),およびその場面における他個体とのやりとりを記録した。また,同時に追跡しているアシスタントが,母親の食物を記録した。その結果,子は母親が食べる食物を,母親の採食場面において同時に食べる傾向があった。その一方で,子は母親が食べない食物を5歳近くになっても食べ続けていた。また,それらの子独自の食物の多くは,アカンボウ期の前半(3歳ごろまで)に,口元の操作の対象となるものであった。これらの結果は,子が他個体から学ぶだけでなく,自身の試行錯誤によって食物を選択している可能性を示唆する。

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© 2017 日本霊長類学会
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