現在,熱帯雨林の減少によりボルネオオランウータン(Pongo pygmaeus,以下オランウータン)の個体数が減少,絶滅の危機に瀕している。そこで生息地であるマレーシアでは野生のオランウータンの孤児等を保護し,野生復帰を目指す活動が行われており,1000頭近くの個体が保護されている。しかし現状として野生復帰が滞っており,多くの個体が保護施設で飼育されたままとなっている(久世 2014)。そこで管理下における行動特性を解明することで,保護施設における環境エンリッチメントに貢献することができるのではないかと考えた。2016年に多摩動物公園において行った調査で,オランウータンの行動を「採食」「移動」「休息」「遊び」「その他」に分類し,それぞれの時間の割合を調べた。それらの割合を「ワカモノ以下」と「オトナ」で比較した結果,若い個体(ワカモノ以下)の方が年をとった個体(オトナ)より「遊び」(他個体との交流や玩具利用)が多く(ワカモノ以下:47%,オトナ:19%),若いほど学習を目的とした行動が増える事が考えられた。しかし,過去に行った研究では「遊び」の内「他個体との交流」には注目することができたが,一方の玩具の利用には注目することができなかった。そこで本研究ではオランウータンの玩具の利用による「遊び」に注目し,「ワカモノ以下の個体の方がオトナより多様な玩具で遊び,学習する」という仮説を立て,それを検証するために「玩具を利用している時間」と「利用した玩具」を記録し,その結果をワカモノ以下とオトナで比較した。調査は東京都動物園協会の多摩動物公園において4/23~6/18まで計13回,9:45~16:45まで行う予定である。調査対象はオトナ3頭,コドモが1頭,アカンボウが2頭の計6頭とした。また,オランウータンに適した環境エンリッチメントについて,「玩具」という視点から考察を行う予定である。