霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: A03
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口頭発表
他者の怪我に対するチンパンジーの反応
*佐藤 侑太郎狩野 文浩平田 聡
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抄録

ヒトにおいて,他者の怪我を見ることは一般的に嫌悪的であり,ネガティブ情動を喚起することが知られている。チンパンジー(Pan troglodytes)は,他個体の怪我を舐めたり,毛づくろいをすることがしばし観察されている。しかし,その行動の背後にある心理は未解明である。チンパンジーにおいても,他者の怪我は注意を引き,情動を喚起するのだろうか。ヒトに最も近縁なチンパンジーにおける怪我への反応を調べることは,他者の怪我や痛みに対するヒトの心理の進化的起源を探る上で重要である。本実験では,アイ・トラッカーを用いて怪我に対するチンパンジー(Pan troglodytes)の自発的な注視パターンを調べた。怪我のあるチンパンジーの画像と怪我のないチンパンジーの画像を対提示し,どちらに注意を向けるかを検討した。赤い怪我の画像は,その赤さが目立ち,怪我とは無関係に注意を引きつける可能性がある。そのため本実験では,怪我の領域にピクセル単位でスクランブル加工を施す条件も設定した。チンパンジーは,怪我のない個体の画像よりも怪我を負ったチンパンジーの画像を長く見た。一方で,スクランブル加工を施したあとではこのような違いは見られなかった。よって,怪我のある個体への選好注視は,単に怪我が赤いために目立ちやすいというだけでは説明できない。これらの結果は,チンパンジーが怪我を負った個体に自発的に注意を向けやすい可能性を示唆している。今後の研究では,他者の怪我がチンパンジーにとって情動的な意味をもつのかを調べる必要があるだろう。

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© 2018 日本霊長類学会
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