霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: B06
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口頭発表
チンパンジーにあってヒトにない大規模サテライトDNA:染色体端部での多様性創出に影響する可能性
*古賀 章彦平井 百合子鵜殿 俊史松林 清明平井 啓久
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抄録

ヒトとチンパンジーの間で,ゲノムの特性に,2つの大きな違いがある。[1] 染色体端部の構造の多様性が,ヒトではチンパンジーより高い。[2] チンパンジーの染色体の末端には大規模なサテライトDNAがある。[1] は具体的には,染色体間でのセグメント重複や遺伝子変換が,ヒトで高頻度でみられることである。[2] のDNAは,subterminal satellite repeatsとよばれる冗長な配列であり,ヒトにはない。[1] は,チンパンジーの方で多様性が低いと,言い換えてもよい。我々は,[2] が [1] の原因となっているとの仮説を立て,検証を行っている。一般に,染色体上のある地点で乗換え(遺伝情報の観点からは組換え)が起こると,その近辺では乗換えが抑制される。チンパンジーではサテライトDNAの部分で乗換えが頻繁に起こり,その結果として,内側に隣接する部分(ヒトの染色体端部に相当)で乗換えの頻度が下がり,これが多様性の低下をもたらすというのが,想定する機構である。この仮説の出発点としての「サテライトDNAの部分で乗換えが頻繁に起こる」につき,精子形成の減数分裂の推移を観察することで,可能性をさぐった。減数分裂の初期に,染色体の末端が細胞膜上の1地点に集まる時期がある。1点からループが多数突出する形状から,ブーケ構造とよばれる。ヒトでは,ブーケ構造は速やかに解消され,その後,染色体は赤道面に並ぶ。これに対しチンパンジーでは,この解消に長い時間を要することが,今回の観察からわかった。サテライトDNAの部分で乗換えが頻繁に起こり,このために解消に時間がかかると考えると,説明がつく。仮設の出発点を支持する結果であり,仮設の検証の進展となった。

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© 2018 日本霊長類学会
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