主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 34
開催地: 東京都
開催日: 2018/07/13 - 2018/07/15
野生霊長類の離乳年齢を正確に調べるのは難しい。これは,コドモが母親の乳首に吸いついていても必ずしも吸乳をともなわない場合があり,また,夜間の授乳行動は観察できないためである。コドモが何歳まで乳由来の栄養や免疫を摂取しているかを正確に調べるには,行動観察によらない指標を探索する必要がある。本研究では,新たな乳摂取の指標として,完全には消化されずに糞中に排出される乳由来タンパク質に注目した。ヒト乳幼児においては,糞中に乳由来の栄養・免疫関連のタンパク質が排出されることが確かめられている。しかし,これら1970-80年台の研究では,免疫測定によってタンパク質が検出されており,特異性の低さと,あらかじめ選定した特定のタンパク質しか調べられないという問題があった。そこで本研究では,質量分析計を利用して試料中に存在するタンパク質を網羅的に同定する最先端のプロテオミクス分析を利用した。霊長類研究所に飼育されている授乳・離乳状況既知のニホンザル(Macaca fuscata)より糞試料を得た。0歳児(授乳中),2歳児(離乳後),オトナそれぞれから,2-3個を分析に供した。分析の結果,乳に特異的に含まれるタンパク質(カゼインやラクトアルブミン)は授乳されている0歳児の糞中のみから検出された。授乳されなかった0歳児の糞からは,乳に特異的なタンパク質は検出されなかった。ほかの体液にも含まれるが乳に特に豊富に存在するタンパク質(リゾチーム,免疫グロブリンJ鎖)については,0歳児で検出ペプチド数が大きかった。離乳過程が進行した際,どこまで乳タンパク質が検出可能であるかを検証する必要はあるが,糞のプロテオミクス分析により,個体の授乳・離乳状況を推定できる可能性が示された。また,本手法は野生個体に対しても適用可能である。