霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: B23
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口頭発表
ウガンダ・カリンズ森林保護区で同所的に生息する霊長類5種の口腔細菌叢の比較
*矢野 航清水 大輔早川 卓志橋本 千絵
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抄録

[目的]口腔細菌叢は1つの生態系を構成している。細菌群は近接する個体間を移動して,やがて宿主種内あるいは種間で伝播していく。細菌種にはそれぞれ生存に適した温度,酸素濃度,pHがあり,宿主の口腔における歯牙や舌を中心とする解剖学形態や消化機能を含めた唾液の性状とその時間的変動がこれらの細菌の生存条件を規定している。近年研究蓄積が進む腸内細菌叢に比較して,口腔細菌叢の種間比較の例は野生・飼育種を含めて少ない。細菌叢構成には系統の影響が大きいとされるが,口腔は外部接触が多く生息域が重複する場合は食物や環境を介した細菌移動も考えられ,種間の細菌叢相種間差は不明である。カリンズ森林保護区ではオナガザル3種,コロブス1種,チンパンジー1種が同所的に存在している。本研究は5種の霊長類の食物残渣に付着した唾液に含まれる細菌叢からDNAを抽出し,メタバーコーディング解析により種レベルでの同定を行いその細菌叢を比較した。[材料と方法]ウガンダ共和国カリンズ森林保護区に同所的に生息する5種の霊長類(Cercopithecus ascanius (n=3), Cercopithecus mitis (n=7), Cercopithecus l'oesti (n=8), Colobus guereza (n=2), Pan troglodytes (n=62))計82頭が吐き出した食物残渣を滅菌綿棒でスワビングしLysis buffer液で保存後,細菌叢DNAを抽出・精製した。16S rRNAのV1-V2領域のプライマーでPCR増幅後,シークエンスライブラリを作成し,京都大学霊長類研究所所蔵の次世代シーケンサー(MiSeq, Illumina)を用いて細菌叢を同定した。[結果と考察]本研究ではフィールドで採取した食物残渣付着の少量の唾液からDNA抽出に成功し,その細菌叢を比較することができた。今後の研究でオナガザル3種,コロブス1種,チンパンジー1種の細菌叢比較では系統による影響と食性,解剖学的形態差,生理条件の差という説明要因の切り分けを行い,宿主霊長類種との共生の視点から細菌種の進化・適応を探索する。

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© 2018 日本霊長類学会
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