主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 34
開催地: 東京都
開催日: 2018/07/13 - 2018/07/15
霊長類の腸管には1000種を超える腸内細菌が共生し,食物の消化を助けている。腸内細菌叢は出生直後から定着がはじまり,母乳栄養から離乳にかけて菌構成の変動が生じる。本研究では,霊長類の中でも葉食性傾向が最も高く,前胃発酵に葉の消化を依存しているコロブス類の乳児で,どのような腸内細菌叢の適応が生じているかを調べた。よこはま動物園において,出生後,人工哺育となった2個体のアカアシドゥクラングール(Pygathrix nemaeus)の乳児を対象とした。一方については250日齢から450日齢ごろまで,他方については1日齢から200日齢ごろまで,糞便を数日から1週間おきに採取した。完全離乳(それぞれ575日齢,333日齢)し,群れ合流した後の糞便も採取した。比較のため,それぞれの母親個体や,同園の別個体の糞便,ならびに人工哺育に従事した担当の飼育員の便も採取した。糞便からDNAを抽出し,細菌のバーコード配列である16S rRNA遺伝子を次世代シークエンサーMiSeqで塩基配列を網羅決定した。146サンプルを分析した。その結果,生後直後から糞便を収集している個体について,検出された細菌バーコードの種数(OTU数:種の豊富さを反映)は,1日齢目は100程度でProteobacteria門を主とする構成であったが,2日齢目から50前後に下がり,主要な菌構成もFirmicutes門とBacteroidetes門へと変化した。その後,OTU数は日齢に伴って緩やかに単調増加し,200日齢ごろには150,完全離乳後の600日齢ごろには350,800日齢ごろには400まで増加して,成体に近い多様性となった。別の乳児個体でも同様の傾向が見られた。このことから,乳児の菌叢が1日齢目で急速に適応し,その後2年以上をかけて緩やかに成体らしい菌構成に近づくという動態が明らかになった。本研究の結果は,コロブス類特異な葉食適応のメカニズムの解明につながるとともに,飼育霊長類の消化管環境の改善にも貢献する知見となる。