霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: B25
会議情報

口頭発表
霊長類のロコモーションを野外で計測する試み―母ニホンザルが行う運搬行動の運動力学的解析
*後藤 遼佑山田 一憲中野 良彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

これまで霊長類ロコモーション研究は実験室を中心として統制された環境のもと行われ,霊長類の運動について多くの知見をもたらしてきた。しかしながら,霊長類が実際に生活する環境下で行う行動の解析については,未だほぼ手付かずのまま残されている。本研究の大きな目的は,実験室研究で発展した計測方法を野外計測に応用し,実験室での計測が困難な行動を運動学的に解析することであった。その一つとして,母ニホンザルが子ザルを運搬する際に,子ザルの成長にともない子の位置が腹側から背側へと変化すること注目した。本研究では,腹側および背側運搬の運動力学的な解析にもとづき,運搬様式の変化と関連する生体力学的要因を考察した。岡山県真庭市神庭の滝自然公園の餌付けニホンザル集団を研究対象とした。自然公園内に約5 mの歩行路を建造した。歩行路の中央にフォースプレートを設置し,歩行路中央付近に向けて三台のデジタルビデオカメラを配置した。二頭の母ザルが生後約一年の子ザルを腹側および背側運搬している歩行に加え,コントロール条件として子ザルを運搬していない単独歩行時の支持基体反力垂直分力を計測した。分析においては,ビデオカメラの映像から求めた移動速度と,フォースプレートで計測した垂直分力を標準化し,それぞれ無次元速度(フルード数),標準化垂直分力とした。単独,腹側運搬,背側運搬の三条件において,標準化垂直分力を目的変数,フルード数を説明変数とする単回帰式を算出し,回帰式の切片と傾きを条件間で比較した。現時点で得られた興味深い結果として,腹側運搬では単独歩行時に比べ前後肢の標準化垂直分力が大きかった。一方,背側運搬条件では後肢の標準化垂直分力はコントロール条件に比べ高いものの,前肢の分力は単独歩行と同等であることが分かった。背側運搬は前肢への荷重を避けることができる運搬様式であることが示唆された。本発表では,詳細な分析結果を報告する。

著者関連情報
© 2018 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top