霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: P13
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ポスター発表
他群の接近がニホンザルの行動にあたえる影響:屋久島海岸域における音声プレイバック実験
*栗原 洋介
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抄録

動物がなぜ群れをつくるかというのは生態学における主要な疑問である。多くの霊長類とは異なり,屋久島海岸域にすむニホンザルでは大きい群れで出産率が高くなる点で興味深い調査対象である。先行研究によって,大きい群れは小さい群れに比べ群間攻撃交渉で有利であるとわかっているが,群間の出会いがその直後のサルの行動にあたえる影響はよくわかっていない。本研究では,音声を用いたプレイバック実験を行い,実験的に再現された他群の接近に対する反応が群れの強さによって異なるかどうかを解明することを目的とした。2015年10月から2017年6月の間,屋久島・西部林道において,2群に属する成獣を対象に音声プレイバック実験を行った。調査地で録音したサルの音声をもとに15秒間の音声刺激を作成し,採食中の対象個体に向けて再生した。刺激提示前後の5分間,個体追跡を行い,採食の中断の有無・クーコールの発声・見回し行動・視界内個体数を記録した。群れの強さが音声刺激に対する行動変化にあたえる影響について階層ベイズモデルで分析した。音声刺激提示後,弱い群れは強い群れより採食を中断する頻度が高かった。弱い群れでのみクーコール発声頻度が減少した一方,2群とも見回し行動の頻度が増加した。2群とも視界内個体数は増加する傾向にあったが,有意ではなかった。弱い群れは群間攻撃交渉で不利であるため,音声が聞こえた段階でいち早く反応し,他の群れに見つからないような行動をとることで,攻撃交渉に発展するのを防いでいる可能性がある。一方,強い群れでは,見回し行動の頻度は増加したものの,採食の中断を伴うような強い反応は稀だった。以上の結果より,弱い群れは他群の接近に対して,採食を中断して群間攻撃交渉を回避する行動をとる必要があるというコストを負っていることが示唆された。

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