主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 34
開催地: 東京都
開催日: 2018/07/13 - 2018/07/15
マカカ属のメスザルが自分の子ども以外の子ザルを養子として育てるのは,メスが出産後1カ月以内の期間にあるときで,しかも,自分の子が死亡しているときに多いことが知られている(Maestripieri, 2001)。ところが,勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)で,生後4カ月で母ザルが集団からいなくなったために孤児となった2頭のオスの子ザルが生後5カ月(事例1),及び生後12カ月(事例2)で3歳の子ザルを持つオトナメスに養子として育て始められた。この2事例を,記述的に記録した。事例1:3歳のオスの子ザルを持つ10歳のメス(養母,Pet88’96)が養子(養母の従妹の子)を育て始めた。養母は養子への授乳,背中での運搬,回収行動,拒否行動などの通常の母親行動を示た。養子が1歳3カ月の時に養母が出産し,養子は授乳を受けられなくなったが,約2カ月間にわたり,養母の乳首に手を伸ばしたり,乳首を口に含もうとしたりして,乳首への強い固執性を示していた。養母から養子への毛づくろいは養子が3歳ころまで確認された。事例2:養母(19歳,Pet88)が,養子(養母とは非血縁)が生後12カ月17日目のその日から,背中で運搬したり,抱いて座ったりするようになった。前日には全くそのような関わりは記録されていなかった。その日の養母は3歳の娘に授乳していたが,1週間以内に養子への授乳が始まり,娘への授乳はなくなった。養母による1歳の養子への授乳,運搬,拒否行動などの一般的な母親行動は,養母が翌年に出産するまでの12カ月間にわたり,確認できた。本報告の2事例は,ニホンザルの経産メスが,自分の産んだアカンボウを亡くした直後でなくても,そして,養子となる子ザルが生後数カ月以上であっても,養子として育てたという極めて珍しい事例であった。この事実は,ニホンザルのメスが多様で,柔軟な子育て能力,母性を有することを示唆している。