主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 34
開催地: 東京都
開催日: 2018/07/13 - 2018/07/15
異なる処理ドメインを持つ情報間に一致性を感じる現象を感覚間一致とよぶ。音と視覚刺激の無限の組み合わせの中から,他者と共有されやすい言語ラベルを生みだすことは困難だが,ある音の特徴とある視覚特徴が結びつきやすくなる感覚間一致があるとすればどうであろうか。組み合わせの幅が狭まることになり,それに基づき生成されたラベルは,他者にとっても受け入れやすいものとなるであろう。こうしたことから,感覚間一致はヒトの言語進化にとって重要な役割を果たしていたと考えられてきた。これまでに,言語との共進化,文化との相互作用,脳の情報処理様式や発達的な変化に由来する可能性,などが議論されてきたが,はっきりとは分かっていないのが現状だ。進化的な基盤を探究するうえで,特にヒトと動物の共通点・相違点を探る比較認知科学的なアプローチをおこなうことが重要である。本研究ではチンパンジーを対象に感覚間一致を分析した。ヒトの場合高い音と明るい色の間,または低い音と暗い色の間に感覚間一致が生じることが知られている。また,この感覚間一致には,音に一致する特徴に目が向きやすくなる注意バイアスと,中間的な情報のみえが音によって変容する知覚バイアスの二つがあることがわかっている。本研究ではこの知覚的バイアスに焦点を当て研究を実施した。具体的には,明るさのバイセクション課題を訓練し,その後,高音・低音を見本刺激に先行提示し,課題を実施するテストをおこなった。チンパンジーの中間色に対する明るさ判断が,提示された音の高さに応じて影響を受けることが確認された。この結果は,チンパンジーがヒトと同様に感覚感一致における知覚的バイアスを持つことを示唆するものである。今後さらに研究を拡張することで,音の高さと明るさの間の感覚間一致を支える認知的基盤および進化的基盤を明らかにしていく足がかりとなると期待される。