霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: A01
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口頭発表
ニホンザルにおける他群個体との距離に応じた行動変化:接近および回避について
*半沢 真帆栗原 洋介兼子 明久夏目 尊好愛洲 星太郎伊藤 毅本田 剛章半谷 吾郎
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抄録

多くの霊長類では,隣接群とエンカウンターしないよう事前に回避していると考えられるが,遊動域の重複があればそこでエンカウンターが起こりうる。一般的には,観察者が視認した時点をエンカウンターとすることが多いが,霊長類にとってのエンカウンターとは必ずしも一致しないと考えられる。しかし,実際はどの時点で他群の存在に気づき,回避または接近しているのかはよく分かっていない。本研究では,屋久島西部海岸域に生息するニホンザルのうち,隣接する大小2群を対象に2018年8月から9月の間,各群の雌雄高順位個体1頭ずつ計4頭に装着したGPS発信器の10分間隔の測位値を用いて,群間および群内の個体間距離を算出した。2群のエンカウンターを観察者が視認した時の他群との個体間距離の最大値は81.8mであった。一方,他群との個体間距離が410m以下の時,その10分後に離れた場合の距離が有意に長くなったことから,観察者よりも早く他群の存在に気づき,回避している距離が推定された。410m以下の時では,群内の個体間距離が短いほど,10分後に他群個体へ接近する割合が高くなった。また,他群との個体間距離が1)410m以下,2)81.8m以下の時を接近時とし,接近個体の性によって10分後さらに接近,または回避する割合を比較し,10分後の移動方向の角度を用いて,接近個体の方向へ移動したか否かを判別した。接近個体が雌同士では,1),2)ともに接近時の回数が最も多かったが,10分後に接近または回避する割合は同程度であり,移動方向は互いに相手の方向に移動する割合が最も高かった。一方,異性同士および雄同士では,2)の距離から回避する割合が高く,移動方向は小群が相手の方向へ移動する割合が高かった。よって,雌同士では接近してもあまり気にせずに移動し,エンカウンターと観察者が視認できる距離まで接近した際は,接近個体が雄の場合回避することが多いが,相手の反対方向に回避する訳ではないことが示唆された。

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© 2019 日本霊長類学会
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