霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: A10
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口頭発表
出自集団で初産を迎えた野生チンパンジーのメス2個体に関する事例報告
*松本 卓也花村 俊吉郡山 尚紀早川 卓志井上 英治
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抄録

チンパンジーの社会では、概してオスは出自集団に留まり、メスは性成熟後に他集団へ移籍して移籍先の集団で初産を迎えるとされており、それが近親交配の回避につながると考えられている。一方で、野生チンパンジーの長期調査地のほとんどの集団において、出自集団で初産を迎え、そのまま集団に留まるメスが確認されている。マハレ山塊国立公園のM集団では、これまで、1993年から1998年の期間(期間Ⅰ)に5個体のメスが初産を迎え、そのうち4個体がその後も集団に留まった例が報告されている。本研究では、同集団で生まれ、2013年から2014年の間(期間Ⅱ)に初産を迎えたメス2個体の特性や他個体との社会関係、および妊娠・出産時の集団の状況について事例報告を行う。そして、過去の5個体の例と併せて、チンパンジーのメスが移出せず、出自集団で初産を迎える要因について検討する。これまでM集団で生まれて性成熟を迎えたメスは32個体であり、そのうち7個体(21.9%)が同集団で初産を迎えたことになる。その7個体のメスの個体特性や他個体との社会関係、および期間ⅠとⅡの集団の状況には一貫した特徴は見られなかった。しかし、以下の排他的でない複数の要因が考えられる。すなわち、集団サイズの減少や環境収容力の増大による採食競合の減少、同集団のメスから攻撃を受けにくいこと、血縁者や養母からの子育ての援助、仲の良い同年代個体の存在、およびワカモノ期の不妊期の短さである。また特筆すべき点として、研究対象のメスのうち1個体と、集団のαオスである同母兄との射精を伴う交尾が、排卵の可能性の高い発情周期後半においても観察された。DNAを用いた父子判定の結果、その子の父親は兄ではなく集団内の他のオトナオスであることが示唆された。メスが出自集団に留まるリスクとなりうる近親交配による妊娠の可能性を評価するためには、今後のさらなるデータの蓄積が必要である。

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