霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: A14
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口頭発表
ヒト亜科の地域個体群内の集団間関係の変異について
*古市 剛史
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抄録

多くの哺乳類では、集団間関係は一様に敵対的であり、地域個体群内の集団の組み合わせによる違いはあまり見られない。しかしヒトでは、同じ地域個体群に属するバンドなどの集団間の関係がその組み合わせによって敵対的なものから親和的なものまで大きく異なり、そのネットワークが地域社会ともよぶべきものを形成している。集団間の親和的関係は資源の共有や共同での狩猟などさまざまな機能を持つが、集団間の女性の移籍が親和的関係の形成に大きく寄与している。ヒト亜科のチンパンジーでは、集団間関係は亜種の違いにかかわらず敵対的で、地域個体群内の変異もあまり見られない。ところがボノボでは、地域個体群内の集団関係が組み合わせによって回避的なものから親和的なものまであり、その関係性も時とともに変化する。ボノボでも、メスの集団間の移籍が特定の集団間の遺伝的距離を変化させ、集団の出会いの際にはメスが出自集団の個体と積極的に親和的交渉をもつなど、メスの移籍が親和的関係の形成とその変異に寄与している可能性があり、ヒトの地域社会に類似した傾向が見られる。一方ゴリラでは、集団間の出会いのかなりの部分が親和的である。とくにリーダーオス間に血縁関係がある集団間で親和的な出会いが多く見られ、集団間の親和的関係の変異に寄与するのがメスであるヒトやボノボとは様相が異なる。ゴリラの地域個体群は、ヒト、チンパンジー、ボノボの地域個体群ではなく、個々の父系集団と相同レベルの構造である可能性がある。そう考えると、ゴリラの集団は父系集団のサブユニットということになり、集団のサイズや構成の大きなバリエーションやフレキシビリティ、遊動域の大きな重複、オス間の血縁による集団間の親和的関係などが理解しやすい。集団間関係のバリエーションや親和的関係に対する雌雄の貢献、地域個体群の遺伝的構造等についてのさらなる研究は、ヒト亜科の地域社会の成立過程に大きなヒントをもたらす可能性がある。

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© 2019 日本霊長類学会
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