霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: A20
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口頭発表
東京都奥多摩町におけるニホンザル管理(奥多摩方式)
*白井 啓邑上 亮真杉浦 義文
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抄録

奥多摩町は東京都の最西端に位置し,全域が秩父多摩甲斐国立公園に含まれ,大部分が山地で,町の中心を多摩川が西から東へと流れている。低標高域はコナラ,フサザクラ等,高標高域はブナ,ミズナラ,サワグルミ等の落葉広葉樹林,さらに上はコメツガ,シラビソ等の常緑針葉樹林になっている。「青梅林業」として林業が盛んだったことで,特に低標高域にはスギ,ヒノキ等の植林地が大変多い。人口は5,142人(世帯数2,683)(2019年4月1日現在)で,東京都内ではあるが過疎化,高齢化が進んで地域振興が大きな課題となっている。奥多摩町の森林には本州に生息する大部分の哺乳類が見られるように生物多様性に富んでいるが,近年ニホンジカの増加によって森林の下層植生が衰退し生物相への影響が心配されている。奥多摩町のニホンザルは,秩父・奥多摩地域個体群に属し,加害群として7群が確認されている。農作物の被害発生には季節性があり,初夏のジャガイモ,真夏の野菜類,晩秋から初冬の冬野菜,カキ,ユズなどが被害にあっている。逆に言えば,春の開葉季や秋の果実季のような農作物に依存しない季節もある。被害対策は,追い払い,防護柵,捕獲が実施されているが,中でも長年追い払いが重要視されている。農耕地の背後には標高1200~2000mの大きな山塊が存在するため,追い払う先がある。1997年度以降,奥多摩町役場として群れ毎に電波発信器を装着することで,従事者が群れの発見と識別ができ効率の良い追い払いが行われてきた。目撃地点を記録することで遊動域を把握でき,個体数のカウントも可能になった。電波発信器,受信器,アンテナを使用している以外は,警報器等の追い払いのための機器を特に使用していない。追い払い従事者は1人で7群を対象にしているため被害防除は完璧ではないが,追い払いの基本形の継続により,被害意識が軽減された事例である。しかし従事者の確保が簡単ではないなど課題もある。

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© 2019 日本霊長類学会
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