主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 35
開催地: 熊本
開催日: 2019/07/12 - 2019/07/14
肩甲骨と体幹をつなぐ筋に着目し、チンパンジーとリスザルの腹鋸筋(SV)、肩甲挙筋(LS)、菱形筋(Rh)の筋形態とその支配神経を調査した。これら3筋は、全て肩甲骨内側縁に停止する筋である。SVはチンパンジーで上位11肋骨、リスザルで上位10肋骨程より起始し、肩甲骨内側縁に停止していた。SVの支配神経はチンパンジーでC5-7, リスザルでC6,7であった。LSはチンパンジーでC1-4横突起、リスザルでC1-6横突起より起始し、肩甲骨内側縁の上1/3に停止していた。LSの支配神経は、チンパンジーでC3,4, リスザルでC4,5であった。Rhは、チンパンジー・リスザルともC5-Th4棘突起より起始するほか、リスザルでは後頭骨より起始し肩甲骨上角付近に停止する筋束がみられた。Rhの支配神経にはC4,5が分布し、リスザルにみられる後頭骨起始部にはC3が分布していた。チンパンジーSV・LS・Rhは、筋形態・支配神経ともヒトと類似しており、類人猿に共通した形態であることが示唆される。一方リスザルは、LSの起始頸椎がヒト・チンパンジーよりも多い点、Rhに後頭骨起始部を持つ点が異なる。LSは、カニクイザルやブタ胎仔などでは全頸椎に起始を持ち、リスザルの形態は中間的ともいえる。Rh後頭骨起始部を持つ種は、カニクイザル・マーモセット・ブタ胎仔等がある。この筋は起始停止の位置関係から、四足姿勢において頭部を抗重力的に支持しているものと考える。またリスザルは、各筋の支配神経においてもヒト・チンパンジーとは差異がある。リスザルの支配神経構成はマーモセット(Emura, 2017)と類似しており、広鼻猿の小型霊長類に共通した形態である可能性が示唆される。以上の点について、本年度借用したタマリンの所見を交え議論したい。本研究は京都大学霊長類研究所共同利用研究にて実施された。