主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 35
開催地: 熊本
開催日: 2019/07/12 - 2019/07/14
テナガザル類は,高いピッチで,純音的な大きな音声で朗々と歌う「ソング」とよばれる音声行動で有名である。ヘリウム音声の音響学的分析と数理モデルによる検証により,その音声は,ヒトのソプラノ歌唱と同様に,声帯振動の基本周波数を声道共鳴の第一共鳴周波数に合わせる歌唱法に近い方法でつくられることが示された。本研究は,大阪大学人間科学研究科飼育のシロテテナガザル・メス1個体を対象に,声帯振動の様態を非侵襲的に観測する声門電図(Electroglottograph, EGG)を用いて,発声中の声帯振動を観測することに成功した。EGGは,頸部両側においた電極の間を流れる電流の変化により,両側の声帯の接触面積の変化を計測し,声帯振動を把握する機器である。テナガザルの声帯振動のEGG波形は,ヒトの話しことばとは大きく異なり,正弦波的でソプラノ歌唱的であった。また,その音声は,声帯振動の基本周波数成分が強調されていた。一方で,ソングの最終盤では,基本周波数が一定以上になると,声帯振動の様態が変化し波形が乱れた。つまり,歌声から叫び声へと変化した。テナガザルの声帯や喉頭には,ヒトの歌声をつくる声帯振動に適応的な形態学的特徴が期待される。また,最終盤の叫び声への変化には,声帯の気質的な差異や,発達過程における習熟の程度により個体間で変異があるかもしれない。本研究は,科研費(#16H04848, 18H03503, 19H01002),APART(Herbst)の支援を受けた。