霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
セッションID: A11
会議情報

口頭発表
Pan 属二種におけるオスの集団内攻撃交渉とアソシエーションパターンの比較
柴田 翔平古市 剛史橋本 千絵
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

チンパンジー(Pan troglodytes)とボノボ(Pan paniscus)は、互いに進化的に最も近縁な二種であるが、オスの攻撃性に大きな違いがある事で知られる。チンパンジーでは集団内・集団間で成熟個体間の殺しに至る激しい攻撃が観察されるが、ボノボにおいてはそのような攻撃性は見られない。二種の攻撃性の違いはメスの発情期間(性皮最大腫脹期間)の違いにより説明されてきたが、最近の研究では二種共に高順位のオスが高い繁殖成功をおさめており、どちらの種においても厳しい繁殖競合が存在する事が示されている。二種の攻撃性に違いを与える要因の解明には、オス間の社会関係を詳細に調べ、攻撃交渉の様相やコンテクストを比較する必要がある。本研究では、Pan属二種のオスの、集団内の攻撃交渉と順位関係及び近接関係に注目した。ウガンダ共和国カリンズ森林保護区にてチンパンジーM集団のオトナオス、コンゴ民主共和国ルオー学術保護区ワンバのボノボE1集団のオトナオス及びワカモノオスを対象に終日個体追跡を行った。チンパンジーの攻撃交渉の頻度は、性皮最大腫脹メスの存在時では不在時の二倍となり、約35%であった。ボノボでは観察期間のうち約90%の期間で性皮最大腫脹メスが観察され、約31%の頻度で攻撃交渉が見られた。追跡個体と他のオス個体の近接頻度を分析した結果、ボノボでは平均約70%、チンパンジーでは平均約50%の頻度で他のオスから10m以上離れて過ごしていた。チンパンジーでは低順位の個体ほど他個体との近接頻度が低い傾向にあったが、ボノボでは順位による近接頻度の差は見られなかった。ボノボでは順位ではなく家系や母親の存命が攻撃傾向や他のオス個体との近接に影響を与えていると示唆される。

著者関連情報
© 2020 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top