霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
セッションID: A13
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口頭発表
動物園のマカクを対象としたオープンラボ型比較認知研究による社会性の比較
村松 明穂
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抄録

マカカ属は多くの種で構成され,その地理的分布域の広さ・生息環境の多様さ・生態の多様さなどで知られている。こうした特徴から,マカカ属を対象とした比較研究が盛んにおこなわれてきた。社会生活については,社会組織・配偶システム・社会構造に着目した先行研究がある。マカカ属の社会性を比較する指標のひとつとして,専制的な傾向の強さに関する4段階の暫定的なスケールが示されている。この4段階スケールでは,グレード1は最も専制的な傾向が強い種を表し,グレード4は専制的な傾向が弱い種を表している。 本研究では,ポータブル式タッチモニタ装置を導入し,日本モンキーセンターで暮らすマカカ属の実験場面での社会性を比較した。実験のすべての手続き・段階は,オープンラボ型比較認知研究として,来園者の前でおこなわれた。対象種は,マカカ属6種(アカゲザル・ニホンザル・ミナミブタオザル・チベットモンキー・ボンネットモンキー・トクモンキー)であった。この6種は,4段階スケールによって,暫定的に,それぞれグレード1からグレード3に割り当てられている。 実験は,食物報酬や装置への馴致から開始し,タッチモニタ課題へと移行した。また,タッチモニタ課題は,徐々に難しい内容に変更していった。 実験者は,実験場面で装置にアプローチ(装置を触る・正面に留まる)した個体を記録し,アプローチ時間を計測した。その結果,アプローチ個体数・アプローチ時間それぞれにおいて種間での差異が認められた。また,この差異は,先行研究で示された4段階スケールに概ね従うものであった。よって,本研究では,飼育下の実験場面においても,マカカ属の社会性を再現できることが明らかになった。つまり,本研究のような動物園でのオープンラボ型比較認知研究を実施することにより,来園者に対して,マカカ属を新しい視点から観察し,社会性について学ぶ機会を提供できる可能性が示された。

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