霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
セッションID: P04
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ポスター発表
TAS2R38の遺伝子多型と食行動及びPTCの苦味感受性変化との関係
沼部 令奈今井 啓雄
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抄録

苦味は、身体に有害となり得る食物を避けるために動物が生来持っている味覚であり、苦味を受容するのはTAS2R遺伝子群にコードされる苦味受容体であることが知られている。苦味受容体の中でも、TAS2R38は遺伝子多型が存在し、個体間の苦味感覚が異なることの原因遺伝子の一つと言われている。ヒトにおけるTAS2R38のハプロタイプは、3つのSNPの組み合わせにより、主に高感受性のPAV型と低感受性のAVI型が見られ、遺伝子型としては多くの民族集団でPAV/PAV、PAV/AVI、AVI/AVIが大多数を占める。 TAS2R38は人工苦味物質PTC 等の苦味感覚の有無及び強度に関係していることが知られているほか、アブラナ科野菜に含まれる苦味の知覚にも関与する可能性があることが報告されている。本研究では、ヒトにおいてTAS2R38の遺伝子多型と特定の食物の苦味感覚及びその嗜好とに関連性があるのかを、アンケートと被験者の遺伝子型とを比較することにより検討した。また、過去の多くの研究において、味覚試験が継続的に行われた例はなく、一度の試験でPTC感受性が区別されていた。ここで、同一個体における味覚の変化はないのかという疑問を抱き、本研究では、20代~30代のヒトを対象に、毎週PTC試験紙の苦味を評価してもらい、その変化をハプロタイプごとに検討すると共に、個人の体調の変化に関係があるかを検討した。その結果、PAV/PAV、AVI/AVIグループ間で継続的に有意差が観察された。遺伝子型と食物の苦味感覚及び嗜好性については有意な相関が見られなかったが、苦味が強いものほど嗜好性と負の相関が見られる傾向にあった。TAS2R38の遺伝子多型はヒトだけでなくニホンザルやチンパンジーでも観察されるため、これらの採食行動と比較しながらTAS2R38の遺伝子多型の進化的意義について検討したい。

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© 2020 日本霊長類学会
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