霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
セッションID: P11
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ポスター発表
飼育チンパンジーにおける排尿タイミングの同期:シミュレーションとの比較
大西 絵奈Brooks James山本 真也
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抄録

行動の同期は、群れを維持するうえで必要不可欠な現象であり、このような現象の解明は、集団生活の進化と紐づけられる重要な課題である。魚類や鳥類にみられる大群での集団移動や、ホタルの同期点滅発光、ヒトを含む多くの動物にみられるあくびの伝染・表情摸倣など、行動の同期現象の文脈は多岐にわたる。本研究は新たに、飼育チンパンジーにおける排尿タイミングの同期を定量的に示すことを目的とした。熊本サンクチュアリにて飼育されている4集団(各5個体、計20個体)を対象に、計193時間の直接観察を行った。 全生起法を用いて排尿タイミングを記録し、また2分間隔のスキャンサンプリング法を用いて、対象集団の行動と近接率を記録した。観察結果に基づき、時間帯毎の排尿頻度・個体差を反映したシミュレーション(100セッション)を行うことで、排尿タイミングのランダムデータを作成し、排尿の同期率を観察値と比較した。その際、セグメント分析を用いて他個体との排尿間隔を分析したところ、65秒が閾値になっていることが示されたため、65秒以内におこった排尿を同期と定義した。結果、排尿が同期する確率は、シミュレーションよりも観察値で有意に高いことがわかった。従って、チンパンジーは、集団内他個体と排尿タイミングを同期させていることが示唆された。一方で、排尿の同期率と社会関係(毛づくろい率および近接率)に相関はみられなかった。しかし現時点では、排尿の生起頻度の低さから充分なサンプルサイズを確保できておらず、データを追加したうえで詳細な社会要因の分析をおこなうことが今後の課題である。このような社会要因を追求することで、排尿の同期現象の理解が深まると考えられる。

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© 2020 日本霊長類学会
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