霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
セッションID: P17
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ポスター発表
安定同位体分析による野生オランウータンの食性推定
蔦谷 匠Wong AnnaMalim Peter T.Bernard Henry小川 奈々子大河内 直彦田島 知之金森 朝子久世 濃子
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抄録

森林伐採による生息地の減少などから、ボルネオオランウータン (Pongo pygmaeus) は野生での個体数を減少させており、より効果的な保全のためには、野生での採食生態の変化をより迅速にモニタリングする必要がある。本研究では、ダナムバレイ自然保護区 ( マレーシア・サバ州) に生息する野生ボルネオオランウータンの採食物と糞便を炭素・窒素安定同位体分析し、採食行動に関する先行研究の知見と照らし合わせて、分析の有用性を検討した。消費者の安定同位体比は採食物源とその摂取割合を反映するため、対象種の体組織や糞便と採食物をサンプリングし分析できればおおまかな食性が推定できる。2015−2017年の18ヶ月間に採集した糞便94サンプルと採食物の一部171点を元素分析- 安定同位体比質量分析計によって分析した。 分析の結果、採食物の安定同位体比には明確な季節性が見られず、アフリカの森林で報告されているような植物部位による有意差も見られなかった。また、おそらく採食物の安定同位体比に明確な差が見られないため、性別、年齢、フランジの有無などによる安定同位体比の有意な個体差も見られなかった。しかし、雨量が減少する4 −10月には糞便の炭素同位体比が有意に増加しており、調査地の年間平均雨量と負に相関するチンパンジーの毛の炭素安定同位体比と同様の傾向が見られた。しかし、近隣の調査地で得られた実際の雨量データを月ごとに平均し、ダナムバレイのオランウータンの糞便の炭素安定同位体比と比較しても、明確な相関関係は見られなかった。まとめると、一次林のダナムバレイでは、オランウータンの採食する植物部位の炭素・窒素安定同位体比が非常に均質であり、そのため個体や季節による差が検出できなかった。そのかわり、農作物や開けた二次林の植物など異なる安定同位体比を示す食物が摂取された場合には明確に検出できると期待される。

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© 2020 日本霊長類学会
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