霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
セッションID: H05
会議情報

中高生発表
飼育ジェフロイクモザルの取っ組み合い行動
上田 菜名穂臼井 瑞穂原 陽南乃
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

私たちは,日本モンキーセンターで飼育されているジェフロイクモザルを対象に,彼らの2個体が互いを掴み合う行動(以後取っ組み合い)について,発生しやすい個体の組み合わせや発生要因を明らかにするため,行動観察を行った。2個体が1秒以上掴み合うことを「取っ組み合い」と定義し,3秒以上休止があれば別パートと数えて,発生回数,継続時間,個体,前後の状況の連続記録を行った。また,個体同士が1秒以上触れ合うことを「接触」とし,個体間の接触の回数,継続時間に加え,鳴き声も記録した。2019年12月から 2020年3月,計10日間,604分,個体間の行動を観察した。野生ではメスからオスへの攻撃行動はほとんど見られないと報告されていることから,攻撃様行動と考えられる「取っ組み合い」に関しても,メスからオスへは見られないのではないかと仮説を立てた。結果は,仮説とは異なり,メスのレイチェルからオスのチロルへの取っ組み合いが全個体間の取っ組み合いのうち,約20%観察された。また,取っ組み合い中にのみ,低音の鳴き声が観察されたさらに,レイチェルのチロルへの取っ組み合い行動にはレイチェルの母親であるレイコの行動が強く関係していることが分かった。 レイコ(母)とレイチェル(娘)との接触時間が長いほど,レイチェルのチロル(オス)への取っ組み合いが少なくなる傾向が示された。以上の結果から,モンキーセンターの飼育下ジェフロイクモザルのメスからオスへの取っ組み合い行動は,野生における攻撃行動とは異なる可能性が示唆された。また,低音の鳴き声は取っ組み合い中の特有の鳴き声だと考えた。レイチェルによるチロルへの取っ組み合いは,母親に対する自分の存在アピールであるのかもしれない。このような行動は,飼育下特有のものなのかは考察の余地がある。

著者関連情報
© 2020 日本霊長類学会
前の記事
feedback
Top