霊長類研究 Supplement
第37回日本霊長類学会大会
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口頭発表
四国のニホンザルの系統地理(続報)
川本 芳葦田 恵美子金城 芳典谷地森 秀二宮本 大右
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p. 34-35

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抄録

(目的)第30回大会でmtDNA分析から四国のニホンザルの系統地理を報告した。この間に, 過疎化とともにサルの分布は拡大し農業被害が増加した。行政は管理と対策を迫られ, 調査しながら個体数調整を中心に群管理を進めている。一方で, サルに関する基礎情報は依然不 十分で, 研究は遅れている。今回は追加試料により前回得た結果を確認・検討することを目的に行った研究を報告する。(方法)高知県と徳島県の7市町村のサル生息地で糞42試料を採取し分析した。Lysis Bufferに保存した糞スメアから試料を調製し, PCR産物からmtDNA非コード領域のほぼ全配列をダイレクトシーケンシング法で決定した。クラスタリング解析とネットワーク解析を行い, 既知配列と比べてmtDNAハプログループを分類し, 四国内外の構造と進化的関係を評価した。(結果)解読に成功した28データを加えて解析を行い以下の結果を得た。①四国のサルが単系統であることを確認した。②四国外では岡山県臥牛山に近縁タイプを検出しているがこれ以外に四国に類するタイプは発見できなかった。③四国内部は東西の2グループに大別できることを確認した。今回の追加試料により讃岐山脈と淡路島が東グループ内で他から大きく分化すること, 臥牛山タイプがこの外縁に位置することを明らかにした。④mtDNAから四国と周辺地域の関係を見ると屋久島は九州より四国へ近縁性を示した。(考察)日本で四国のサルは早い時期に成立した系統と考えられる。古くに成立しながら四国は単系統であり, 周辺では臥牛山以外に近縁タイプがみつからないことから, 瀬戸内海の陸化にもかかわらず周辺から母系には影響を受けなかったことが予想できる。島内に東西分化が認められ, さらに今回の結果では讃岐山脈の分化が注目に値する。単系的に成立した個体群が示す島内分化の原因を個体群や環境の変化と関係付けて理解することが今後の課題である。

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