霊長類研究 Supplement
第37回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
「種子食者」と「昆虫食者」は異なる基準で果肉を選択する
武真 祈子Bitencourt AparecidaSaunier EuzianeJesus RogérioRodorigues Aline M.Koolen Hector HF.Barnett Adrian A.Spironello Wilson湯本 貴和
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p. 42

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抄録

果実の果肉は多くの霊長類が好む食物である.霊長類は,果肉と葉,果肉と昆虫など,果肉とそれ以外の食物を組み合わせた食性を持つことが多い.そのため,食性の種間比較をする際には果肉以外の部分が注目されることが多く,共通部分である果肉利用の種差はほとんど検討されてこなかった.しかし,果実には多様な形質があり,霊長類側の体サイズや栄養要求も様々である.そのため,どんな果実の果肉を選択するかという点にも種ごとに異なる戦略があると考えられる.本研究では,主に果肉と種子を食べるキンガオサキと,主に果肉と昆虫を食べるコモンリスザルの果肉選択基準の違いを解明することを目的とした.2019年3月から2020年2月の間,フリーレンジングのサキ二群とリスザル一群を追跡し,スキャンサンプリング法で採食物を記録した.二種が果肉を利用した果実および利用しなかった果実について,形態(果実と種子のサイズ,固さ,重量,種子の数),果肉中の栄養成分(粗タンパク質,粗脂質,炭水化物,粗灰分,中性デタージェント繊維),果肉中のフェノール含有量を測定した.これらの測定値を説明変数として,サキとリスザルそれぞれの果肉選択に与える影響を一般化線形モデルによる多変量解析で検討した.サキの果肉選択にはタンパク質含有量が影響しており,タンパク質がより多い果肉が利用されていた.一方リスザルでは,灰分がより少ない果肉が利用されていた.霊長類のタンパク源として一般的なのは葉と昆虫だが,サキはそれらをほとんど食べないことが知られ,代わりに種子を食べることでタンパク質を摂取していると考えられてきた.本研究の結果から,種子を食べることだけでなくタンパク質の多い果肉を選択することもサキの採食戦略の一部であることが示唆された.このように,種ごとの採食戦略の違いは特徴的な食物利用に限らず,普遍的に利用される食物である果肉の選び方にも現れるということが明らかになった.

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© 2021 日本霊長類学会
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