霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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口頭発表
基準脳への解剖学的相同変換に基づくヒトとチンパンジーの局所脳形態差の抽出
天野 英輝田邊 宏樹荻原 直道
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p. 25-

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抄録

ヒトの脳の特徴と進化を明らかにする上で,ヒトと,生物学的にヒトに最も近縁なチンパンジーの脳形態を比較することは重要である。脳画像解析によって両者の脳形態を定量的に比較するには,比較の基となる基準脳を作成し,各個体の脳を高精度に基準脳へ変換することで,ボクセル単位で相同部位を対応づける必要がある。そこで,本研究では,ヒトとチンパンジーの脳構造画像を,各脳領域を解剖学的にラベリングした脳地図から定めた相同領域に基づいて形態変換する手法を開発し,両者の各領域の脳形態差を可視化・定量化することを目的とした。ヒト10個体,チンパンジー10個体の頭部MRI画像を,脳容積でサイズ正規化し,脳地図に基づいて相同領域を定義した。そして,各個体の脳形態を線形変換(アフィン変換)によって重ね合わせ,さらに各個体の脳を,非線形変換(DARTEL変換)を用いて脳回,脳溝などの構造の細部まで一致させ,ヒトとチンパンジーの基準脳を作成した。各個体の脳から基準脳への変形場を主成分分析することによって,種間の脳形態差を抽出・可視化し,定量的な比較を試みた。その結果,認知能力と関連する多くの領域が,ヒトで相対的に大きいことが確認された。具体的には,前頭葉の前頭極(ブロードマン領野10),背側前頭前野(46,9),眼窩前頭皮質(11),頭頂葉の楔前部(7)で,これらの脳部位は,それぞれ遂行機能,ワーキングメモリー,価値表象,自己意識・視空間認知能力と関係する。さらに,側頭葉の側頭極(38),中側頭回(21),側頭頭頂接合部及び,前頭前野内側部(32)がヒトで相対的に大きく,これらの領域は,他者の立場で考える認知能力(メンタライジング)と関連し,ヒトで顕著な向社会性の神経基盤をなしていると考えられている。ヒトの進化の過程において,これらの領域の拡大がどのような順番で起きたのかを化石証拠から分析することで,ヒトの大脳化に作用した選択圧と進化的背景を明らかにできると考えられる。

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© 2022 日本霊長類学会
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