霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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口頭発表
山口県周防大島町・大水無瀬島のニホンザル:人びとによる島の利用の歴史と新たな調査地としての可能性
花村 俊吉林 泰彦青山 徳幸
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p. 26-

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抄録

山口県周防大島の南側に、無人島になって久しい大水無瀬島がある。この島にニホンザル(以下サル)が生息している。1960年から間直之助が調査してきた比叡山のサルのうち、分裂した比叡山A群が、1980年ごろから京都市の八瀬で猿害を起こすようになった(半谷ほか, 1997)。市から猿害調査を依頼された伊谷純一郎は、1987年に高畑由起夫とともに調査をおこない、当時日本モンキーセンター園長であった小寺重孝の個人的な指導のもと、27頭の集団捕獲に至る(高畑, 私信)。伊谷が今西錦司と宮本常一から紹介されていた猿舞座に仲介を依頼し、大水無瀬島に放獣することになる。輸送と放獣の詳細は不明だが、猿舞座と、伊谷が指示した見届け人が放獣場面を確認している(筑豊・小山, 私信)。以降、島の付近を漁場とする漁師に目撃されてきたほか、近年では、山口県東部海域にエコツーリズムを推進する会が主催する無人島ツアーの資源のひとつにもなっている(藤本, 私信)。私たちは、2022年4月6日に大水無瀬島に渡った。あちこちでサルの糞が見つかり、浜辺で崖の上を移動する4頭のサルを直接観察した。漁師によると、サルが威嚇しながら向かって来たり捨てた魚を食べに来たりしており、ある程度は人に慣れているようだ。糞が多数あった浜辺と尾根沿いの獣道に3台のカメラトラップを仕掛けたので、回収が間に合えばその結果も報告したい。大水無瀬島は、旧日本軍が無線基地としての利用を放棄して無人島になる以前は、この島を属島とする沖家室の人びとが救済島(困窮島)として利用してきた。そうした島の歴史のなかにサルの人為的な移動も位置づけ、自然・文化複合的な共有資源として活用していくことが期待される。放獣後の社会や食性の変容の有無も、興味深い調査トピックになるだろう。また近年、みかん農家の多い周防大島に、本土側から大島大橋を渡ってサルが入って来ており、警戒感が高まっている。周防大島や付近の有人島へのサルの渡来や人との関係についての調査も待たれる。

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© 2022 日本霊長類学会
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