霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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ポスター発表
認知課題に対して見られたチンパンジーのメタ認知-できないことはやってみなくてもわかる-
田中 正之吉田 信明
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p. 68-

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抄録

京都市動物園では、1群6個体のチンパンジーが認知課題に参加する「お勉強」の時間を、週に1~3回程度設けている。動物園類人猿舎の1室に15インチタッチモニターが3台設置され、各モニター上の小型IPカメラで画面に向かうチンパンジーを記録した。課題はタッチモニターに提示されるアラビア数字を昇順に指で触れる系列学習で、すべての数字を正しい順序で触れれば小片の食物報酬が得られた。各個体習熟度に合わせて問題の難易度(系列長)を調整し、成績が学習基準に到達すれば、数字をひとつ増やした。チンパンジーは3台のモニターのうちどの画面に向かってもよく、時には問題が継続していても場所を離れ、その後に他個体が入れ代わって問題に向かうことなどがあった。その時、当該個体が学習している問題より難しい(系列長の長い)問題を見ただけで、問題を始めずに場所を離れることが見られた。これらの事例を、過去の記録から集めて、当該個体の学習レベルとの関係を調べた。

2021年5月から2022年5月までの間に実施した「お勉強」時間の映像を解析対象として、既存の深層学習モデル(Keypoint RCNN)をチンパンジーの顔領域の検出と個体分類向けにファインチューニングした上で、タッチモニターの反応データと照合した。開始された試行が完了しなかった、つまりチンパンジーが途中で場を離れた事例を対象として、顔が検出されなくなるまでの時間を算出した。当該個体がその時点で学習している系列長の場合と、それより長い(当該個体には困難な)系列長の場合を比較したところ、45歳の1個体で、困難な問題のときに顔が検出される時間が有意に短い、つまり早く場所を離れることが示唆された。

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© 2022 日本霊長類学会
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